ナイトスクープ、こういうのがあるからなあ、元寿司屋の父。

こういうのがあるから、ついついみてしまう。
さらに、この親子のシチュエーションがますます泣かせてくれた。
東京にでて働こうとする息子が、10年前まで寿司店を経営していた父にもう一度お父さんの握ったすしを食べてから東京にむかいたいとねがう。
いま、お父さんはすし職人をやめ、会社員として子供たち三人を大学まですすませ、親としての責任を果たしている。
オヤジは、寿司屋をたたまざるをえなくなった以上、寿司を握ることを潔しとしない。
白い割烹を着て、すしを握っていた俺は格好良かったというプライドがある。
だから、すしは握らない。
しかし、息子はこういう。
格好良さで言ったら、今のおやじの方がかっこいい、寿司屋をたたまざるをえなくなったが、俺らを養い、子供三人を大学に入れくれてる、好きなことをやめても家族を養ってるおやじの方がかっこいいと。
オヤジのプライドと、子どもの感謝の気持ちのぶつかり。
長い葛藤の末、オヤジは意を決し、10年ぶりに板場にたって、カウンター越しにすしを握った。
このすしの味を息子は一生忘れまい。

地方、特に関西にすむものにとって、上京するということがどれだけ重いことか、首都圏にすむものにはわかるまい。

バブルの終わりに、JR東海の新幹線のCMで、父の手紙編というのがあった。
BGMは尾崎豊のI love youだった。
その手紙の最後の一行、自信がもてるまでは帰ってくるな!というセリフが忘れられない。

当時、私は妻と横浜にすみ、東京で働いていた。
このCMについて、妻に、このおやじの気持ちが分からんやろと言ったら、案の定、上京するって、そんな大変なことかと返ってきた。
その頃、日曜日の夜にアサヤンが放送されていて、エンディングテーマがまだ、やっとメジャーになりかけたシャ乱Qの上京物語。
このうたについても、妻はそんな大変なことかと言った。

いま、妻は関東に戻り、一人息子は東京での大学生活を選んだ。
ゴールデンウイークや正月など、短期的に家族が一緒に生活することはあるだろうが、長期に一緒住むことはもうないだろう。
息子は東京嫌いなので関西での就職を今は望んでいるが、将来日本にすら残るかどうか。

さて、ナイトスクープに話を戻すと、元寿司屋のおやじ、10年ぶりにすしを握って、妻と息子にうまいと言われたことに味をしめ、数年後にもう一度寿司屋をやりたいといいだし、それをきいた妻がおろおろしてるというオチまでつけた。
こんな良い話にオチをつけることころが、ナイトスクープナイトスクープたる由縁なのだが、世のおやじ族にとっては、これはオチではない。
夢のつづきなのだ。