Y先輩の優しさ

Y先輩は私が大学1年生の時の3年生。
主にフルバックやウイングをしていたが、バックスならハーフ以外全てこなした。
Y先輩は2年生ぐらいから1本目と2本目を行ったり来たりで、
結局1本目には定着しなかった。
ラグビーでは超がつく名門校出身。
私は大学入学前の3月から入寮して練習に参加していたが、
寒の戻りで冷え込んだ日に、太ももの肉離れを起こし、
ウエイトルームでの筋トレの日々だった。
私のような肩書きのない選手の怪我による出遅れは致命的でどこにも居場所が見つけられなかった。
そんなある日、Yさんとウエイトルームで一緒になった。
気さくに話しかけてくれて、腕相撲やろうやと誘われた。
俺弱いですけどいいですかと聞くと、俺も弱いしと。
Yさんは左利きなので左で勝負することに。
勝負はあっけなかった。
私が圧倒しての勝利。

でもこれ、Yさんがわざと負けてくれたと私は思っている。
だって、いくら弱いと言っても1本目で出ている人に勝てるわけがないことを
自分が一番知っている。
Yさんは、無名選手なのに怪我で出遅れて所在無げな私に
「心配しなくても、ここでやっていけるって」とエールを送ってくれたと思っている。
Yさんは寮生ではなかったしポジションも全く違ったので、親しくなることもなかった。

テレビで腕相撲を見るたびに、Y先輩のことを思い出す。